小さなインパクト part5

 僕が女性とラブホテルの部屋にいる。
未知の世界に立った感覚に全身が緊張している。
ゆっくりと辺りを見回すと真っ白な部屋の中央にある大きなベッドが自然と目に入る。
ここで男女が・・・
後ろから笑い声が聞こえた。
『やっぱり気になっちゃうよね』
まるで勝ち誇ったかのような意地悪な笑い方をしてるハルカさんに指摘されて恥ずかしくなった。
「ぃゃ、あの・・なんかつい」
『初めてなら当然の反応よ♪』
「もっと狭いイメージを持ってたんですが、けっこう広いんですね」
何とか自分を誤魔化すように部屋全体への話に切り替えようとした。
『部屋によるね。高い部屋ほど広いしゴージャスになるよ』
「ゴージャス・・・」
妙な所に引っ掛かった独り言でまたハルカさんにケタケタと笑われた。
ホテルに来てから恥ずかしい事ばかりだ。
でも、撮影はもっと恥ずかしいんだろうなと考えると足が震えそうになる。
 
『そのバッグ開けて照明機材を出してくれる?』
「ぁ、はい」
傘の形をした照明らしき物が2つと 骨組み?の金属スティックがいくつも入っていた。
『私はこっち組み立てるからヒロト君も適当に組み立ててみて』
(適当にってハルカさんらしいなぁ)
言われるがままに始めてみたけど複雑な構造じゃないので、スタンド部分は簡単に組み立てることが出来た。
 
『じゃあ この壁をバックにするからこことこっちに設置して・・・と』
傘状の中にライトをセットすると、一番大きな壁に向かうように2組の照明を向け ちゃんと作動するかチェックしていた。
『OK!これで撮影は始めれる。あとはヒロト君が着替えればスタートよ♪』
一気に緊張が増した。
今からここでパンツ姿になって写真に撮られるんだ。
 
『どうする?先にシャワー浴びておく?』
「え!?シャワーですか?」
『別に汗かいたりしてないんなら そのままでもいいけど』
「えーと・・浴びてからの方がいいですか?」
どうしていいか分からず、ついハルカさんに聞いてしまった。
『ん~ せっかくだし浴びておく?
 そうだ!私カメラの準備がまだだった。ヒロト君がシャワー行ってる間にやっとくね』
そう言うと持参していたバッグをゴソゴソし始めた。
 
1週間もあったけど、まだ心の準備が出来ていない事をここにきて自覚した。
撮影を少しでも先延ばし出来るような気がして僕はお風呂場に向かった。
洗面台付近には大量のタオルと よく分からないアメニティが沢山置かれている。
そもそも仕切りが無いからハルカさんが移動したらこの場所も丸見えになる。
そんな状況で服を脱ぐだけでも緊張してしまう。
早く中に入ってしまえと思って、素早く裸になって服を籠に入れると風呂の扉を開けて広い空間へ飛び込むように入った。
特に汗をかいていないけど、これから緊張して汗をかくかもしれないからボディソープも使って綺麗にしておく方が良さそうだ。
別に触られたりするわけじゃないけど、ソープを大量に体に塗りたくって体を洗う。
触られたり?・・・ぃゃ、初対面の時に触られている・・・
シャワーを勧めたのもハルカさんだし場所はホテル・・
いやまさかそんな急に。
突然自分の妄想が直走る。
何を考えてるんだ僕は。
妄想を振り払おうと夢中で体を洗っていたがボディソープのヌルヌルのせいもあって 徐々に自分の物が硬くなりつつある事に気付いた。
いけない、このままじゃ出れない。
早く収まれ収まれ!
しかし意識すればする程 意に反してどんどん硬くなっていく。
深呼吸してみても勝手に妄想が頭を駆け巡って邪魔をする。
どうしよう・・何とかしなきゃ。
ふと思い付いてシャワーを一気に冷水にしてみた。
股間に掛けると刺激になってしまうから首から下全体をキンキンに冷やした。
6月に入ったというのに水はまだかなり冷たい。
体が硬直する程に冷水を掛け続けたらどうにか収まってくれた。
危ないところだった、あのままだったらハルカさんに一体どう思われたか。
 
何となく流れでシャワー浴びたはいいけど、このまま下着を履けばいいのかな。
とりあえず体を拭いたタオルを腰に巻いた姿でハルカさんに聞いてみた。
正直この姿でも恥ずかしいけど、これくらい動じてませんみたいなアピールで "何でもない風" を装ってハルカさんの前に登場してみた。
 
「もう履いちゃっていいですか?」
視線をよそに向けて何気ない感じで聞いてみた。
『ちょっと画面確認するからこっちに立ってみて』と手を引かれた。
『冷たっ!なんでこんなに冷たいの?』
「あの・・なんかシャキッとするかなと思いまして冷水を浴びてました」
『わーぉ 気合い入ってるね~♪』
咄嗟だったけど どうにか誤魔化せたみたいだ。
まさか硬くなってしまったのを宥めていたなんて言えない。
 
壁の前に立つとハルカさんが照明のスイッチを入れた。
想像していたより10倍くらい眩しい。
そして目の前にはハルカさんしか居ないのに、まるで大勢から注目されてるような錯覚に包まれた。
モデルとして撮られるというのは こういう事なんだ。
 
『うん!大丈夫。じゃあ最初はどれにしようかな~』
早くも下着を選んでるが、明らかにベッドの上にバッグをひっくり返してブチ撒けた感がいかにもハルカさんらしい。
「あれ?5枚って言ってませんでしたか?」
『ぇ?あー、これね。決めきれずに10枚持って来ちゃった、エヘヘ♪』
悪びれずにサラッと言ってる。
しかし、その中の1枚に目が止まった。
「ハルカさん、これって・・・」
『それも撮りたくて持って来たの。Tバックよ♪』
僕はその下着を手に持ったまま無言で固まってしまった。
その僕の様子を見たハルカさんが
『ダメだった? 嫌? 無理?』
「・・・・・ちょっと想定外で・・・」
ハルカさんを見ると眼差しが残念そうにも見えるし、懇願してるようにも見える。
露出面積が少し増えるだけだと思えば・・・
自分を言い聞かせるように意識して
「分かりました、いいですよ」と返事をした。
『やったぁ!流石ヒロト君♪』
無理に格好をつけてOKしてしまったけど、やっぱり困惑は隠せない。
 
『まずはこれからゆっくり始めてこうか』
渡されたのは初めて履かされた時と同じ黒だったけど、いわゆるボクサーパンツだ。
ハルカさんなりに気を使ってくれたようで少しだけ安心した。
袋から出されたパンツを持って、一旦 洗面所の方へ移動して腰にタオルを巻いたまま下に履いてみた。
タオルを取って鏡を見るとピッチリしたボクサーパンツを履いた僕がそこにいる。
今からポーズを取ってハルカさんに撮られるんだ。
僕は一度 胸の奥深くまで息を吸い込み ハァァァァと吐いた。
意を決してパンツ姿のまま戻って壁の前に立った。
「準備OKです」
『はーぃ、じゃあ撮っていくね♪』
ピピッという小さな音の後にパシャッとシャッターが切られる音がした。
 
最初のシャッター音と同時に 自分の耳で聞こえるんじゃないかと思う程に心臓が高鳴ったのが分かった。
上半身全体が鼓動を打ったかのようだった。
下着姿を女性に撮られるという、僕の日常から大きく乖離した行為・状況に単なる緊張とは違った衝撃を感じた。
そんな僕の動揺をよそにハルカさんは次から次へとシャッターを切っていく。
高さを変え角度を変え、時にグッと近付いてきたりと。

『じゃあ次は後ろを向いて』
「はい」
販売サイトを見ていたので、違和感なく後ろを向いた。
『息を深く吸って もう少し腰を反らして。足は踏ん張るイメージで手は拳を握って。』
思っていたより真面目な撮影だと感じるけど、やっぱり恥ずかしい気持ちは変わらない。
20枚ほど撮ったところで次の下着を渡された。
「凄い色ですね・・・」
渡されたのはボクサータイプと形は似てるけど、それはピンクの蛍光色だった。
『同じような商品を揃えても他の会社に勝てないからね~』
 
もし1枚目にコレを渡されていたら どれだけ抵抗があっただろうか。
「ちょっと待ってて下さい」
冷静を装ってピンクの下着を握って脱衣所へ移動する。
覗きに来る事はないと思うので、そのままサッサと履き替えてみた。
鏡に映るピンクのパンツを履いた自分。
個人的にはかなり滑稽に見えるが 世の中にはこういうのを好む人もいるんだろう。
 
これでハルカさんの前に出るのは かなり勇気が必要だったけど内心は躊躇いながらもスタスタと前に登場した。
『わぁ♪ やっぱりこういうのは若い子が似合うね♪』
「そうなんですか?自分ではしっくり来ないですが」
否定的な感想とは分かっていたが敢えて正直に言ってみた。
『うーうん、本当に似合ってるよ。素敵♪』
こればかりは返事のしようが無かった。
ハルカさんの言葉を信じるしかない。
それでも 素敵と言ってもらえたおかげか、少し楽になった気がした。
もしかしたら そう言って欲しかったのかもしれない。
 
1枚目と同じ要領で撮影を再開した。
アドバイスも貰ったので、加速するようにサクサクと進んでいく。
ピンクの下着は30枚ほど撮ったところで次の下着へと移った。
 
3枚目はピンクの色違いで、これまた蛍光色の鮮やかなグリーンだったからホッとしたくらいだった。
考えてみると妙な感じだ、ついさっきまで女性の前で下着姿になる事にも抵抗があったのに今はグリーンというだけで安堵する自分がいる。
 
ここまで来ると思い上がりかもしれないが、何となく一端のモデルになったような気でポーズを取っている。
『1枚目よりも "らしさ" が出て来たねぇ。対応力あるのも若さ故かしら♪』
ズバリと指摘されて恥ずかしさを思い出してしまった。
「ん~何が違うのか自分ではイマイチですが・・・取ってるポーズも同じですし」
照れ隠しもあって少し誤魔化してみたが、隠せてなかったような気もする。
 
撮影は順調に進み、いよいよ最後のTバックになった。
ここまでの短い経験から、眺めて考えるよりも思い切って履いてみた。
後ろも恥ずかしいが前もかなり小さい。
最低限の布面積しかないデザインでサテンなのかな?とても艶々した生地で出来てる。
特にお尻に食い込むというのが こんなにも妙な感じだったとは。
想像していたよりも恥ずかく抵抗がある。
しかしOKの返事をした以上、やっぱり無理なんて言い出せないし こうしてる間もハルカさんは待っている。
ハルカさん自身はこういう商品を売っているんだから きっと見慣れてるはず。
だから残るのは僕の度胸だけだ。
鏡に映る自分の顔を睨むように気合いを入れて洗面所から出た。