小さなインパクト part1


 大学に入って2ヵ月になるのに、これと言って大学生らしい事を何もしていない。
友達が出来てないので一度も会話すらしていないくらいなのだから。
キャンパスライスは自動的にイメージしていた物になると、勝手な期待を抱いていただけで
人と話すことも苦手な引っ込み思案には そう都合良くはいかないのが現実だ。
せめて実家から通うのではなく、一人暮らしが必要な大学を選ぶべきだったかと後悔すらしている。
高校まで続けたバスケもレギュラーにもなれず卒業と同時にやめてしまったが 今からでも見学に行ってみようか・・・
と、想像だけしている。
きっと行くことは無いだろう。
 
今日も必修と選択科目をこなしただけで帰路についている。
玄関を開けると見慣れない靴がある。
赤いエナメルの派手なデザインだから すぐ目に付いたが我が家でこんな靴は姉も母も履かない。
僕の帰宅に気付いた母がリビングから声を掛けた。
ヒロト、ちょっと来て』
 
呼ばれるままに部屋に入ると案の定、母の友達らしき女性がいた。
サバサバした性格の母は友達が多い。
「こんにちわ」と、ありきたりな挨拶をすると その女性は典型的な営業スマイルで
『こんにちわ♪ 素敵な息子さんね』
と社交辞令と丸わかりの挨拶が返って来た。
 
『この子は私の後輩、今は下着のセールスをしてるの。
あんたの下着も買ってあげるから ちょっと服を脱ぎなさい』
「え!?いきなり何?」
『試着するのよ、別にここで裸になれって言ってるんじゃないから 隣の部屋でこれを履いてきなさい』
と黒いパンツらしき物を渡された。
「パンツ姿になれって言うの?」
『何恥ずかしがってるのよ、下着なんだから当たり前でしょ。いい歳して。ほら早く着替えて来て』
いい歳という言い方は違うような気がするが 母の無神経とも言える物言いに結局は流されてしまうのが我が家のパターンだ。
 
カバンを置いて下着らしき物を握って渋々 隣の部屋に移動した。
リビングでは2人が世間話で盛り上がっている。
それを耳にしながら服を脱いだが、渡されたのは所謂ビキニパンツだ。
こんな物、履いた事ない。
第一、地味な少年が身に着ける物じゃないと思うが母が付き合いで買ってあげるだけなんだろう。
 
『履いた?ちょっとこっちに来なさい』
「いいよ、もう履いたし分かったから」
『いいから来なさいって』
 
またも一方的に言う母親に気圧されるように スゴスゴと2人の前に出た。
初対面の女性の前に 初めて履いたビキニパンツだけの姿で立っているのだ。
平気なフリはするが顔から火が出そうなくらい恥ずかしい。

『あんたそれでいいね』と大して関心無いように言い切られて 「ぅ・・うん」としか言えなかった。
内心、確認すらいらなかっただろうと声にならない抵抗をする。
セールスの女性は つつっと僕の横に移動してきて正座のまま下着の説明を始めた。
『ここに新しい技術の繊維が使われていて跡になりにくいの』
『それとここに・・・』
僕はそんな説明を聞かされるより早くこの場を去りたいという気持ちでいっぱいだった。
母親だって ふーんという感じで元よりどうでもいいという風だ。
その直後、母親がセールストークで並べられた下着に目を移した時、女性にサラッと股間を撫でられた!
偶然 手が当たったという流れを装っていたけど、今のは明らかに故意だ。
一瞬の出来事で僕はあまりにビックリして体は硬直したまま声も出なかった。
当の女性はこちらに目も合わせない。
 
「じゃあいいね」と僕は言い捨てるように隣の部屋に引っ込んで急いで服を着た。
リビングに置いたカバンを拾うと不愛想に2階の自室へと上がった。
階段を上がりながらも2人の会話が耳に届く。
 
『息子さんはあれで良かったのかしら?』
『いいのよ、どうせ学校から帰ったら部屋でアクセサリー作るだけなんだし』
 
僕の唯一続いてる趣味をバラしている・・・
家族しか知らないと思っていたのに、意外といろんな人に知られているのかもしれないと思うと、
さっきまでの恥ずかしさに加えて自分が小さくなってしまいそうだった。
 
部屋に入るとドアに背中をもたれさせたまま自分の状況をドキドキしながら整理した。
今、ズボンの中は初めて履いた黒のビキニだ。
僕がビキニ・・・一体何のためにあるんだと改めて考えるとえらく妙な気分になった。
それにさっきの女性、なんであんな悪戯を・・・
恋人も出来たこと無い僕が 女性に股間を触られるなんて ほんの一瞬の出来事とは言え大きな衝撃だった。
母親の後輩と言っていたけど見た感じでは僕の15才くらい上だった。
いかにも地味な僕をからかったんだろうか。
撫でられた瞬間がグルグルと頭の中で繰り返し再生される。

 

何となく階下が気になって耳を澄ませてみるけど、流石に会話は聞こえない。
小一時間ほどすると玄関の開く音がした。

そっとカーテンの隙間から下を見ると、赤いパンプスを履いた女性が帰って行く姿が見えた。

 
僕はその夜、つい触られた瞬間を思い出しながらビキニパンツを履いたままオナニーをした。