小さなインパクト part3

 
 勇気を出してLINEにメッセージを送った僕は落ち着かずに画面を眺めていた。
そう、僕にはメッセージの一つにしても勇気のいる行動なのだ。
なにせ女生とLINEするなんて家族以外では初めてなんだから。
けど、既読にもならないな。
まだ仕事中の様子だったし送るには早過ぎたかもしれない。
 
スマホを持ってると余計に気になってしょうがないので、気を紛らわすためにも買って来た材料でアクセサリー作りをする事にした。
春をイメージしたデザインで というザックリした依頼だが、それはそれで自由に出来るので嫌ではない。
桜のピンクとタンポポのイエローを組み合わせたブレスレットを下絵として描き上げてあるので あとは指先の作業だ。
やり始めれば集中できると思っていたが、それでもスマホが気になってしまう。
若干モヤモヤしながらも とりあえず作業を進める。
チャームを先に作成するためパーツと接着剤を用意する。
と、ここでスマホの着信音が鳴り、反射的に手に取った。
 
『楽しかったね♪また今度 機会があったらお茶しましょうか。アクセサリー作りは捗ってるかな?』
一瞬 見られてるのかとギョッとしたが、ハルカさんが僕の事で知ってるのは趣味くらいだから 何気にそれを言うのも当然と言えば当然か。
「ちょうど今 リピーターさんからの依頼品を作っていた所です」
『すごーい!プロだね』
不意にプロと言われて慌てて否定した。
「いえ、そんな大したもんじゃないです。ただ、僕の作品を気に入ってくれたみたいで」
正直、プロなんて言われて嬉しかったが この流れで謙遜しないわけにはいかない。
『いつか私も作って欲しいな♪』
当たり障りのない社交辞令というメッセージだったので
「そうですね、いつか作ってみましょう」
つい こちらもありきたりな返事をしてみたが、妙に上から目線な言い方をしてしまった。
『本当に!?やったー楽しみ♪』
何だか思った以上にリアルなリアクションだったけど、それは別に構わない。
製作は好きだし、嫌がられるなんて事は無さそうだ。
いつか・・・か。
また偶然に会うのを待たなくても連絡手段はあるから、渡そうと思えば渡せる。
それにすぐに取り掛かって完成させても、何だかそれはそれで必死感が出てしまうような・・・
何でも考え過ぎの癖が出てどうしていいものかハッキリしない。
一先ずアイデアが湧いたら下絵にしておこう。
今は先客のオーダーを優先しないといけないし。
そう思うと、作業に戻ってアクセサリー作りを再開した。
 
 
その夜、僕は夢を見た。
ハルカさんが知らない男性の前に座って股間を撫でている夢だった。
僕は透明人間のように傍らからその光景を眺めている。
股間を撫でているハルカさんは心なしか嬉しそうにも見えた。
覚えているのはこの短い部分だけだ。
起きてからハッとした。
初対面で僕の股間を撫でたんだ、他の男性に同じ事をしていても不思議じゃない。
考え始めると凄くモヤモヤした。
しかし気になるけど本人に聞くわけにもいかない・・・
僕の事を素敵だと言ってくれたけど、やっぱり自信の無い僕としては社交辞令だったと思ってしまう。
男性用の下着も売っている妙齢の女性だ、公私でこれまでにも大勢の男性と知り合ってきたに違いない。
やはり僕はからかわれたんだろう。
モデルの誘いもそうだったのかな・・・?
いや、でもあれはもし僕がイエスの返事をしていたら向こうも後から断る事になるから それは無いかな。
考えれば考える程、分からなくなっていった。
これまでの事で僕がハルカさんを意識している事は否定できない。
最初に触られた事は未だに腑に落ちないけど、考えて分かる物じゃないから軽い気持ちの悪戯だと飲み込んでおく事にした。
 
それからは偶然でもハルカさんに会う事が無く、平凡な日々が過ぎていった。
裏口から出入りしているようだし、ショップに行く頻度を増やしたとしても タイミング良く遭遇するわけもない。
自分からLINEをする勇気も無い僕は心のどこかで悶々としていた。
 
2週間ほどが経った時、ふとハルカさんからメッセージが来た。
写真付きのメッセージだった。
『モデルするとこんな感じよ~♪』
そこにはボクサーパンツを履いた男性の首から下の写真が添えられていた。
程良く引き締まった体の男性で、いかにもという印象の写真だとしか思わなかった。
 
「モデルさん、決まったんですね」
『まだ決まったわけじゃないよ。この人はとりあえずテスト撮影だけしてもらったの。
ヒロト君へのサンプルにもなるかなと思って送ってみたの』
 
まだ諦めてなかったんだ。
と言うより、やっぱりあの時の誘いは本気だったのか・・・
 
「格好いいですし、この人で決まるんじゃないですか?」
『ん~スタイルはいいけど、私は人柄が合わない感じだったから ちょっと微妙かなぁ』
「知り合いのお客さんなんですか?」
『ん? あー、だってこれ撮影したの私だもん』
「え!? ハルカさんがカメラマンなんですか? ぁ、女性だからカメラウーマンと言うべきでしょうか」
『あはは、そんな律儀な所も好きよ(笑)
プロのカメラマンを雇うのは費用かかるし、カメラ経験者の私がとりあえずやるの。小さな会社だしね~』
 
サラッと言われたが僕としてはかなり衝撃だった。
否が応でもハルカさんが下着姿の男性を撮影している光景を想像させられるからだ。
 
「モデルさんならスタイルさえ良ければいいというわけじゃないんですか?」
『確かにそうなんだけど、食事に誘われたりして私としては困る面もあってさ』
 
正直、複雑な心境になった。
知らない男性がハルカさんを狙っている?
それも下着姿を撮影する女性と その男性モデルという関係で。
何とメッセージしていいか悩んだ。
ハルカさんも大人な女性だ、そういう対処はちゃんと出来るはず。
でも本人は嫌がってる風だし・・・
 
「その人の他に候補はいないんですか?」
『他って言うと今はヒロト君だけよ』
他にいないのか・・・

「僕もテスト撮影してみていいですか?」
『本当に!?嬉しい♪じゃあ今度お互いの都合を照らし合わせて日取りを決めようか♪』
 
つい、勢いというか何とかしたい一心で言ってしまった・・・
でも取り消したりしたら それこそ格好悪いし何より失望させてしまうかも。 
 
僕が下着モデル・・・早まったような気がする・・・